地球環境データコモンズ設立記念シンポジウム開催報告

2024年1月10日、東京大学伊藤謝恩ホールにて、「社会的共通資本としての地球環境データ」と題し、東京大学地球環境データコモンズ設立シンポジウムを開催しました。会場、オンラインともに多数の方に参加いただき、盛況のうちに終了することができました。関係各位皆様へ心より御礼申し上げます。

開催要旨
日時:2024年1月10日(水)16:00-17:45
開催方法:東京大学伊藤謝恩ホール、オンラインのハイブリッド

結果概要
開催挨拶
藤井 輝夫(東京大学総長)
東京大学の基本方針UTokyo Compassの目標のひとつである地球規模の課題解決への取組の実践として、地球環境データコモンズへの期待のお言葉をいただきました。

藤井輝夫 東京大学総長

来賓祝辞
千原 由幸(文科省研究開発局長)
地球環境データコモンズがデータ統合・解析システムDIASに貢献し、我が国における地球環境データの中核機関として人材育成や研究開発データの利活用の拡大に向け積極的な役割を果たしていくことを期待しているとのお言葉をいただきました。

千原由幸 文科省研究開発局長

大和 裕幸(JAMSTEC理事長)
JAMSTECの地球シミュレータを活用して地球環境デジタルツインの分野を開拓し、地球環境データコモンズと協力してデータ利活用の推進やユーザの拡大に努めていきたいと抱負を話されました。

大和裕幸 JAMSTEC理事長

講演1「地球環境データコモンズ発足」
沖 大幹(地球環境データコモンズセンター長)
「地球環境データは豊かな生活、健康で文化的な暮らしを支える社会的共通資本でありコモンズという名前がふさわしいものです。地球環境データコモンズは東大最小の部局であり、他部局や国内外の研究機関と連携して運用していくことになっています。今後長期スパンでの研究開発を念頭に、データエンジニアリング(統合)、データサイエンス(解析)、データプラットフォーム(基盤)の3つのセクションからなる組織体制および連携研究体制を強化し、引き続き学際的融合研究の展開を目指します。ニーズを把握しユーザインターフェースを工夫して多くの方に使っていただき、必要なときに適切にアクセスできる大規模データベースの運用ができる人材を育成することで、世界に貢献していきたいと考えています。」
と抱負を話されました。

沖大幹 地球環境データコモンズセンター長

講演2「地球環境データコモンズのスタートに当たって」
喜連川 優(東京大学特別教授)
「DIASのユーザ数は現在12000人超、半数以上が海外の方です。巨大データのダウンロードが増えており、また一度ダウンロードすれば利用完了となるデータセットが多いにも関わらず毎月利用する固定ユーザが一定数います。そこで、「ダウンロード」撲滅計画を考えています。DIASにすでに用意されているテンポラリな空間を利用してReal CopyからVirtual Copyへの転換を行いたいと思っています。
2023年のG7ではオープンサイエンスへの言及がありました。論文よりもデータが重視される潮流の中で、FAIR原則(Findable、Accessible、Interoperable、Reusable)に則ったデータ公開が国際規約となっています。DIASではすでに実現できていますが、継続するには努力と予算が必要であります。
能登半島地震では膨大なツイートの中でボランティアの抑制など過去の知見の共有がなされました。ただいま地球環境問題のための大規模言語モデルの構築を推進中です。ぜひ、ご期待ください。」
と今後の構想を話されました。

喜連川優 東京大学特別教授

パネルディスカッション「社会的共通資本としての地球環境データの利活用と地球規模社会課題への貢献について」
モデレータ:沖 大幹(地球環境データコモンズセンター長/東京大学大学院工学系研究科教授)
パネラー:
喜連川 優(情報・システム機構長/東京大学特別教授)
石川 洋一(海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門 地球情報科学技術センター長)
大原 美保(東京大学大学院情報学環教授/東京大学生産技術研究所教授)
今田 由紀子(東京大学大気海洋研究所准教授)

まず、石川センター長、大原教授、今田准教授の研究紹介がありました。
石川センター長から、海洋デジタルツインをはじめとした最近の動向として、ユーザの多様化、データセットの複雑化、課題解決につながるアプリケーションの重要性の増加があげられました。
大原教授から、フィリピン・マニラ首都圏近郊での国際共同研究プロジェクトが紹介されました。洪水早期警戒システムが活用されており、ファシリテータ育成に向けた訪日研修も開催したとのことです。
今田准教授から、異常気象と気候変動研究における地球環境データの利活用が紹介されました。地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベースd4PDFを用いて異常気象に対する温暖化の影響を定量化し、緩和策強化の促進やリスク管理に役立てているとのことです。

パネルディスカッションでは、データの蓄積が大切であること、観測データだけではなくシミュレーションデータの保管にも意義があること、重要な政策決定に用いられたデータをとっておいて後世の検証に耐えうるものにする責任があることが議論されました。また、現在の生成AIに使用されるような大規模言語モデルに資するビッグデータをまとめておき質の良いデータを学習してもらうことが大事というお話もありました。システムを作ること自体に対する評価は従来の学術の中ではあまり高くありませんでしたが、論文を書いたときに使ったデータやシステムについて引用してもらうよう対応すべきであること、今後日本の人口が減少していく中で、開発人材だけではなくユーザとの仲介を行うファシリテータの育成が重要であることが指摘されました。沖センター長が「コモンズとしての地球環境データが未来の社会を少しでもよくするために利活用されるよう邁進してまいります」とお話し、パネルディスカッションを締めくくりました。

閉会挨拶
齊藤 延人(東京大学理事・副学長)
学際融合研究施設の趣旨である、どの部局にも属さない幅広い学問領域を横断する学際的な研究を、恒常的に推進し運営するために組織改組に至った旨を話されました。現在は東京大学の中で最も小さい部局ですが、地球環境データコモンズが重要な研究ハブとなるよう本部としても支援していくとお話し、会を締めくくりました。

齊藤延人 東京大学理事・副学長

プログラム
16:00-16:05 開会挨拶 東京大学 総長 藤井 輝夫
16:05-16:15 来賓祝辞 文科省研究開発局長 千原 由幸  JAMSTEC理事長 大和 裕幸
16:15-16:25 講演1 地球環境データコモンズ センター長 沖 大幹
16:25-16:45 講演2 東京大学 特別教授 喜連川 優
16:45-16:50 <休憩/移動>
16:50-17:40 パネルディスカッション
テーマ:
社会的共通資本としての地球環境データの利活用と地球規模社会課題への貢献について
モデレータ:沖 大幹 地球環境データコモンズ センター長/東京大学大学院工学系研究科 教授
パネラー:
喜連川 優 情報・システム機構長/東京大学 特別教授
石川 洋一 海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門 地球情報科学技術センター長
大原 美保 東京大学大学院情報学環 教授/東京大学生産技術研究所 教授
今田 由紀子 東京大学大気海洋研究所准教授
17:40-17:45 閉会挨拶 東京大学 理事・副学長 齊藤 延人
終了後 18:00より レセプション(伊藤国際多目的スペース)

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